フェニックスファイナンス-1章11『カジノクリーン作戦』後編

2021年11月2日

1章11『カジノクリーン作戦』後編


「あーあ、1発で終わりそうだなぁ」

入り口で戦況を見ている鷹峰とロゼの横に寄って来たハイディが言った。

確かに状況はハイディの言う通りで、先制攻撃の勢いのままに、ならず者たちは各個撃破されて追い込まれている。ハイディの情報からカジノの内部構造が判明している上に、索敵魔法で敵の配置はほぼ丸裸にされていたのだから地の利も何もあったものではない。

慰めの一言でも伝えようと鷹峰が振り向くと、ハイディの持っていた異様に大きな弓が目に入った。彼女の身長の1.5倍はゆうにある。

「デカイな」

「これ最新の折り畳み式なんですー! すごいでしょー!」

これが500万の弓だろうか。折り畳み式なのでさっきはそんなに目立たなかったのだろう、と鷹峰は納得した。

その時、ロゼがふと言った。

「あそこにアローズの的が見えますね。あそこがハイディさんの元仕事場ですか?」

ダーツのものより一回り大きい、赤緑黄青の4色で色分けされた的が1階ホールの壁にかかっていた。射線はひらけているが距離が40メートル近くあり、鷹峰には幾分遠く思えた。

「こっからだと……、ちょっと厳しいよな?」

「余裕ですよー」

鷹峰は無茶振りをしたつもりだったが、ハイディは冗談を言っている様子ではない。

「んじゃ、最後一押しにやってみるか」

「真ん中に当たったらあの的貰っていいですかー?」

「外れたら金庫開けの手間賃は無しだぞ」

「ベット成立ですねー」

ハイディがそう言って笑顔を浮かべた頃、裏方や2階からの侵入部隊とソニア達が内部で合流して、残り2,3人の一団を1階ホールの角に追い込む形となっていた。

「皆さんアローズの的に注目!」

鷹峰は大きな声でそう言ってハイディを見る。

ハイディは既に背筋をピンと伸ばし、弓矢を引き絞って狙いを定めていた。

そして、鷹峰が「いいよ」と言う前にハイディは矢を放った。

ヒュウンと乾いた音が響き、アローズの的の真ん中、直径2センチ程度と思われる赤い円に矢が突き刺さった。

あまりの正確さに言葉を失った鷹峰に代わって、ソニアが言った。

「これ以上抵抗すると、次はあんたらの頭がああなるわよ。それでもまだ続ける?」

それが鎮圧終了の言葉であった。


不法占拠者達を縛って並べると、居るも居たり21人。モルゲン遊興の雇った自警団が返り討ちにされたのも頷ける戦力である。

「さて、それじゃ早速お宝の御開帳といきますかね」

「はいはい。こっちでーす」

アローズの的をゲットして上機嫌になっているハイディに案内され、カジノ内の一角、バーのカウンターに鷹峰達は移動した。

「よいしょっと」

ハイディがカウンターの横の方でなにやら操作をすると、カウンターテーブルの前面――客が座った際、膝の向かい側に位置する――の木板が外れ、中から横に長い両開きの金庫が出現した。

「なんだそりゃ……」

と後ろで縛られていた男の一人が声を上げた。

「金庫の場所すら見つけられてなかったのね。というか、ビブランはこいつらに書類の存在を明かしていたのかな?」

ソニアが鷹峰に聞いた。

「こいつらが大臣の弱みを手に入れて、脅す側に転じる可能性も考えられるからな。『カジノに居座って、モルゲンを締め上げろ』って程度の指令しか受けてないと見るね」

ハイディがポケットから鍵を取り出して鍵穴に挿し込む。

右に二周回し、一度鍵を抜いてから別の鍵を入れて今度は左に三周回す。そうすると金庫の前面の4隅がボンヤリと光りを帯びる。ハイディは「よいしょー」と言いながら腰を浮かせ、右下、右上、左下、左上の順番にその光に触れ、最後にもう一度最初の鍵を入れて90度左に回した。ガチャンとカギの開く音がした。

「これ、間違った手順だと人が吹っ飛ぶくらいの衝撃波って言ってたけど、ホントなのか?」

ハイディが鍵をしまいながら答えた。

「試してみますー?」

鷹峰は少し興味を持って振り返る。しかし、ソニアとロゼ、そして傭兵の皆はノーセンキューと言った表情であった。

「またの機会にするよ」

「では、早速中身を拝見します。ハイディさん、昨年分の帳簿類をお願いします」

「あいさー」

ロゼとハイディは扉を開けて資料調査にとりかかった。それを見てソニアが言った。

「しばらく時間がかかりそうだし、私はあの縛った奴等を警衛兵に引き渡してくるわ。傭兵連中は2人残しておいて、交代でしばらく見張りかな」

「わかった。それでいこう」

「じゃ酒場で」

その時、バーのキッチン横に施錠されたガラス棚があり、酒瓶が並んでいるのが鷹峰の目に入った。

「ソニア、女将さんにいつものお礼で高いのを数本持って帰ろうと思うんだが、お前分かるか?」

鷹峰が指差した方向を見て、ソニアの目が輝いた。

「好きなの選んでいいの?」

お前が好きなのを選ぶんじゃなくてだな……、と鷹峰はツッコミかけたが止めておいた。

「ああ、数本適当に頼むよ。ロゼとハイディはどうだ?」

書類と格闘しているロゼは片手で不要の意を示し、ハイディは「カギはこれですー」と言って酒棚のカギをソニアに投げ渡した。

「じゃあ、残りは傭兵の皆さんに振舞うかな。ボメルさーん」

と鷹峰が声を張り上げて傭兵達を呼び、振り返ると、

「私のはこれね!」

ソニアは手近にあった木箱に戦利品20本程度を並べていた。

1章12前編に続く

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