フェニックスファイナンス-1章10『背水のフンコロガシ』前編

2020年4月11日

前回までのあらすじ

鷹峰は異世界の不良債権処理に首を突っ込んだことから、モルゲン遊興というカジノ運営ギルドの保有するを元カジノ不動産を使った荒稼ぎを思いついた。現在はならず者達に占拠されている元カジノ店舗を掃除し、高値で売ろうと鷹峰達は動き始め、原資となるお金を大臣から借りることに成功した。

1章10『背水のフンコロガシ』前編

ルヌギア歴 1685年 4月7日 アテス・カイエン銀行アテス支店

大臣から借り入れた800万フェンの内、まず50万フェンでロゼを法務アドバイザーとして2週間雇い、彼女を伴って鷹峰はカイエン銀行を訪れた。ソニアは知り合いの傭兵を集めるために別行動をとっている。

この日は前回と違い、アポなしだったので会議室で30分ほど待たされたところに支店長のジョルジュが駆け込んできた。

「お待たせしてしまって申し訳ない。会議が長引きまして」

「いえいえ、お気になさらず。こちらが急に参った次第ですし」

ジョルジュがロゼに目を留めたので、鷹峰は彼女を紹介してから席についた。

「さて、以前資料を頂いた不良債権の3ギルドですが、ザッと経営状況を見てきました」

「ありがとうございます。それで、どうでしたか?」

「まず、フルフォリとメリ食品については残念ながら私の手には負えません。在庫も不動産もスッカラカンで、現金も有価証券も残りカス程度でした。不良債権として置いておくより、破産させて新たな事業なりなんなりに挑戦させた方がお得でしょう。メリ食品はともかく、フルフォリの方は技術者の腕は確かのようですから、カイエン銀行さん主導で堅実に稼げそうな分野の製造ギルドに作り変えるのもアリかもしれません」

「なるほど。こちらで検討いたします」

鷹峰はそれを聞いて2,3度頷き、一息入れて、居住まいを正してから言った。

「さて、ここまでは無料アドバイスで、ここからビジネスのご相談です」

ジョルジュが少し驚きの表情を見せる。

「もう1ギルド、調査に入ったモルゲン遊興ですが、ここも正直なところ金目のモノは残っておらず、債権回収はできそうにありません。……正攻法では」

「ほう。では正攻法では無い方法があると」

「ええ。ただし、大銀行さんが実行するには何かと難のある方法でして」

「ふむ。あれですな、ハゲタカファンドとか言う手口ですかな?」

ジョルジュの思わぬ表現に、今度は鷹峰が驚きの表情を浮かべる。

「ハゲタカファンドなんて言葉をよく御存知ですね」

『ハゲタカファンド』とは、経営破たん状態の企業を買収し、資金注入、経営陣の交代、リストラ断行、不採算部門売却、法的整理(破産)などを駆使して企業を蘇らせることを生業にしている金融機関や投資集団を意味する。日本ではバブル崩壊以降に、外資系、とくにアメリカのファンドがこのような方式で日本企業の経営に入り込み、ある場合は上手く蘇らせ、ある場合は最後の血の一滴まで搾り取って利益を出すビジネスが行われた。

「カイエン銀行の上層部には隠れ日本人がおりましてね。それで聞いたことがある程度ですよ。まぁ、そもそもウチの銀行は創業者自体が日本人ですしね」

自分以外の日本人の話が出たので、鷹峰は興味を引かれたが、『隠れ』というからには紹介してもらうワケにもいかないのだろうと判断し、本題を進めることにした。

「なるほど。しかし、本場のハゲタカファンドは私なんかよりもっと狡猾で、ダイナミックな手法を使いますよ」

「そうなんですか?」

「ええ。さしずめ、今の私なんてハイエナ……、いや、フンコロガシが良いところでしょう。カイエン銀行さんにとっては処理すべきフンを、ちょっと転がして有効活用できる。その程度の存在ですよ」

ジョルジュが含み笑いをしながら言った。

「では、このモルゲン遊興の債権というフンを、どうあなたに転がしてもらいましょうか?」


ここからが本題だ、と鷹峰は自分に言い聞かせ、ジョルジュの目を見て問い返した。

「質問を返すようで申し訳ないのですが、この案件、いくらくらい回収できればという希望額はありますか?」

「負債総額4億の1割で4000万ですから…、5000万フェン回収できれば御の字ですな」

「確かに。私の金融屋的な見地からいっても、その辺がラインだと思います」

一拍間をおいて鷹峰は続けた。

「ですので、モルゲン遊興の債権4億フェンを、1億フェンで私に買い取らせていただけませんか?」

「は……?」

ジョルジュは予想外の申し出に戸惑い、鷹峰の真意を測りかねているようだが、なんとか言葉を絞り出す。

「いや、それはありがたい申し出ですし、1億も回収できるなら私も行内で鼻が高いですよ。ただ、失礼ながら鷹峰様が1億フェンをお持ちとはお見受けできないのですが……」

「それはその通りです。なので、とりあえず前金で本日はなんとか目標ラインの1割、500万フェンのみの支払い、残り9500万フェンを2週間後に支払とさせていただけると助かります」

それにロゼが付言する。

「前金支払段階で、債権の保有権をこちらに渡していただく事も条件になります」

「ふむ。つまり、2週間でモルゲン遊興から金を絞り出すと」

「絞り出すというのはちょっとイメージと違いますが、まぁ遠からずかもしれません。どうでしょうか?」

ジョルジュは額に手をあてて数秒考えると、アッサリと決断した。

「いいでしょう。乗ります」

あまりのトントン拍子に鷹峰は拍子抜けした。1つ2つ条件を付けられたり、手法を聞かれることを覚悟していたからだ。ジョルジュがそれを察して言った。

「どうやって? と聞いたところで、今は教えてはくれないのでしょう?」

「おっしゃる通りです」

ジョルジュは席から立ち上がって言った。

「それでは手続きは別の担当者に任せますので、私はこれにて失礼します。時間がとれず、あわただしくなって申し訳ありません。成功した時は手法をお聞かせください」

「お聞かせする頃には、御耳に届いていると思いますがね」

ジョルジュは柔和な表情を崩さず、軽く会釈して会議室から去って行った。

1章10後編に続く

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