今日から始める異世界M&A-1章10『背水のフンコロガシ』

前回までのあらすじ

鷹峰は異世界の不良債権処理に首を突っ込んだことから、モルゲン遊興というカジノ運営ギルドの保有するを元カジノ不動産を使った荒稼ぎを思いついた。現在はならず者達に占拠されている元カジノ店舗を掃除し、高値で売ろうと鷹峰達は動き始め、原資となるお金を大臣から借りることに成功した。

1章10『背水のフンコロガシ』

ルヌギア歴 1685年 4月7日 アテス・カイエン銀行アテス支店

大臣から借り入れた800万フェンの内、まず50万フェンでロゼを法務アドバイザーとして2週間雇い、彼女を伴って鷹峰はカイエン銀行を訪れた。ソニアは知り合いの傭兵を集めるために別行動をとっている。

この日は前回と違い、アポなしだったので会議室で30分ほど待たされたところに支店長のジョルジュが駆け込んできた。

「お待たせしてしまって申し訳ない。会議が長引きまして」

「いえいえ、お気になさらず。こちらが急に参った次第ですし」

ジョルジュがロゼに目を留めたので、鷹峰は彼女を紹介してから席についた。

「さて、以前資料を頂いた不良債権の3ギルドですが、ザッと経営状況を見てきました」

「ありがとうございます。それで、どうでしたか?」

「まず、フルフォリとメリ食品については残念ながら私の手には負えません。在庫も不動産もスッカラカンで、現金も有価証券も残りカス程度でした。不良債権として置いておくより、破産させて新たな事業なりなんなりに挑戦させた方がお得でしょう。メリ食品はともかく、フルフォリの方は技術者の腕は確かのようですから、カイエン銀行さん主導で堅実に稼げそうな分野の製造ギルドに作り変えるのもアリかもしれません」

「なるほど。こちらで検討いたします」

鷹峰はそれを聞いて2,3度頷き、一息入れて、居住まいを正してから言った。

「さて、ここまでは無料アドバイスで、ここからビジネスのご相談です」

ジョルジュが少し驚きの表情を見せる。

「もう1ギルド、調査に入ったモルゲン遊興ですが、ここも正直なところ金目のモノは残っておらず、債権回収はできそうにありません。……正攻法では」

「ほう。では正攻法では無い方法があると」

「ええ。ただし、大銀行さんが実行するには何かと難のある方法でして」

「ふむ。あれですな、ハゲタカファンドとか言う手口ですかな?」

ジョルジュの返事に鷹峰は少し驚いた。

「ハゲタカファンドなんて言葉をよく御存知ですね」

『ハゲタカ(ファンド)』とは、経営破たん状態の企業を買収し、資金注入、経営陣の交代、リストラ断行、不採算部門売却、法的整理(破産)などを駆使して企業を蘇らせることを生業にしている金融機関や投資集団を意味する。日本ではバブル崩壊以降に、外資系、とくにアメリカのファンドがこのような方式で日本企業の経営に入り込み、ある場合は上手く蘇らせ、ある場合は最後の血の一滴まで搾り取って利益を出すビジネスが行われた。

「カイエン銀行の上層部には隠れ日本人がおりましてね。それで聞いたことがある程度ですよ。まぁ、そもそもウチの銀行は創業者自体が日本人ですしね」

自分以外の日本人の話が出たので、鷹峰は興味を引かれたが、『隠れ』というからには紹介してもらうワケにもいかないのだろうと判断し、本題を進めることにした。

「なるほど。しかし、本場のハゲタカファンドは私なんかよりもっと狡猾で、ダイナミックな手法を使いますよ」

「そうなんですか?」

「ええ。さしずめ、今の私なんてハイエナ……、いや、フンコロガシが良いところでしょう。カイエン銀行さんにとっては処理すべきフンを、ちょっと転がして有効活用できる。その程度の存在ですよ」

ジョルジュが含み笑いをしながら言った。

「では、このモルゲン遊興の債権というフンを、どうあなたに転がしてもらいましょうか?」

鷹峰はジョルジュの目を見つめながら言った。

「質問を返すようで申し訳ないのですが、この案件、いくらくらい回収できればという希望額はありますか?」

「負債総額4億の1割で4000万ですから…、5000万フェン回収できれば御の字ですな」

「確かに。私の金融屋的な見地からいっても、その辺がラインだと思います」

一拍間をおいて鷹峰は続けた。

「ですので、モルゲン遊興の債権4億フェンを、1億フェンで私に買い取らせていただけませんか?」

「は……?」

ジョルジュは予想外の申し出に真意を測りかねたが、なんとか言葉を絞り出した。

「いや、それはありがたい申し出ですし、1億も回収できるなら私も行内で鼻が高いですよ。ただ、失礼ながら鷹峰様が1億フェンをお持ちとはお見受けできないのですが……」

「それはその通りです。なので、とりあえず前金で本日はなんとか目標ラインの1割、500万フェンのみの支払い、残り9500万フェンを2週間後に支払とさせていただけると助かります」

それにロゼが付言する。

「前金支払段階で、債権の保有権をこちらに渡していただく事も条件になります」

「つまり。2週間でモルゲン遊興から金を絞り出すと」

「絞り出すってのはちょっとイメージと違いますが、まぁ遠からずかもしれません。どうでしょうか?」

ジョルジュは額に手をあてて数秒考えると、アッサリと決断した。

「いいでしょう。乗ります」

あまりのトントン拍子に鷹峰は拍子抜けした。1つ2つ条件を付けられたり、手法を聞かれることを覚悟していたからだ。ジョルジュがそれを察して言った。

「どうやって? と聞いたところで、今は教えてはくれないのでしょう?」

「おっしゃる通りです」

ジョルジュは席から立ち上がって言った。

「それでは手続きは別の担当者に任せますので、私はこれにて失礼します。時間がとれず、あわただしくなって申し訳ありません。成功した時は手法をお聞かせください」

「お聞かせする頃には、御耳に届いていると思いますがね」

ジョルジュは微笑みながら軽く会釈し、会議室から去って行った。


ルヌギア歴 1685年 4月8日 アテス モルゲン遊興事務所

鷹峰とロゼはカイエン銀行で債権買取の手続きを済ませた翌日、モルゲン遊興を訪れた。対応に出てきたハイディに対して債権の権利書を見せて、鷹峰は言った。

「銀行の方はうまくいった。だから、予定通り頼む」

いつもの会議室に通され数分待っていると、痩せこけた男性を伴ってハイディが入ってきた。

男性は顔面蒼白で、少し震えつつ、部屋の入口で深々とお辞儀をして言った。

「モ、モルゲン遊興のギルドオーナーのスコット=モルゲンです」

おおかた、債権者が変わって一発目の催促に来たのだと考えているのだろう。ひょっとすれば鷹峰が日本人だと知っており、「なにやら神通力を使って脅し、取り立てをしてくる」なんて恐怖しているのかもしれない。

鷹峰とロゼも立ち上がって挨拶をした。

「初めまして。鷹峰亨です」

「法律顧問のロゼ=プリテンダです」

4名が席につくと、スコットがオドオドしながら口火を切った。

「あ、あの、本日はその……、ウチにはもう返すような……」

怯えきって動転している様子である。鷹峰が諭すようにゆっくりとした口調で言った。

「スコットさん、落ち着いてください。保険に入って首をくくれとか、この事務所を売れとかそういう話をしに来たのではありません。今日はお宅にとって、いい話を持ってきました」

「いい話、ですか?」

鷹峰が4億フェンの債権書を机の上に出して言った。

「こちらの4億フェンの債権を昨日、私がカイエン銀行さんから買い取りました。つまり、現在こちらの4億の貸主は私となります」

スコットが頷きながら返事する。

「はい」

「そこでご相談なのですが、モルゲン遊興さんが保有されているヘルメース地区のカジノ、あの物件をこの債権と交換して頂けないでしょうか?」

「えっ?」

予想外の申し出に言葉を失うスコットに代わり、ハイディが言った。

「それは、カジノを鷹峰さんに譲渡すれば、借金4億を帳消しにして下さるという事ですかー?」

「ええ。その通りです」

スコットも合点が行ったようだが、まだ心配顔である。

「しかし、あのカジノは今……」

「現状は存じております。ですが、あのままで結構です」

それにロゼが条件を追加する。

「建物、土地、カジノ内の物品全てを併せて4億で我々が買い取り、こちらの借金4億と相殺する。とお考えください」

「あとは、そうですね、ハイディさんに一度内部案内をして頂ければそれで結構です。もちろん、不法占拠者をこちらで追い出して、安全にした後での話ですよ」

鷹峰の意図が読めず、スコットは頭を抱えるように悩んでいる。そこにハイディが言った。

「オーナー、これほどありがたい話はありませんよー。どこの不動産屋もあの物件については煙たがって取り扱ってくれませんし、国も衛兵を動かしてくれませんしー。それに、国の帳簿上の評価額は変わりませんから、このままだと固定資産税も例年通り来ますよー」

固定資産税とは、土地や建物といった不動産資産にかかる税である。ルヌギアでも日本と同じように、土地や建物の価値に応じて税額が決まるのだが、オプタティオ公国は「ならず者に占拠されている」なんて事態を考慮してはくれないため、不動産が事実上使えない状況なのにも関わらず、税金だけは例年通り課されてしまうのだ。

ハイディの言葉が一押しになったのか、スコットは「よしっ」と小さく言って鷹峰を見た。

「鷹峰さんがどうお使いになるかは分かりませんが、ありがたい話です。どうぞよろしくお願いします」

「ありがとうございます」

鷹峰は机に手をついて頭を下げた。

その後、登記(役所への申請)に必要な資料をロゼとハイディが協力して整え、譲渡証明書を作成して鷹峰とロゼはモルゲン遊興から出た。

「最後のハイディさんの一言が助かったわね」

「そりゃそういう手筈だったからな」

ロゼが疑惑の表情を鷹峰に向ける。

「事務所に入った時に言ったろ、『予定通り』ってな。ハイディは既にこっち側の人間だ」

ロゼは心底、「こいつは敵に回したくない」と感じた。


ルヌギア歴 1685年 4月8日 アテス 酒場『パルテノ』

「どうだった? 上手くいったの?」

酒場に戻ってきた鷹峰にソニアが声をかけた。

「ああ。バッチリだ。明日ロゼに登記に行ってもらうから、不法者占拠者様ご一行のお掃除は10日以降かな。そっちの傭兵探しはどうだ?」

ソニアは右手を開いて「5」と示しつつ、得意げに答えた。

「傭兵5名を200万フェンで2週間雇って、既に監視を開始しているわ。全員金山防衛隊の時の仲間で、腕に関しては保証できるわよ。向こうの人数とか力量が判明して、増員が必要なら追加で数人雇うかもしれないけど、おそらく不要じゃないかな。この前出てきたチンピラ程度なら、100人200人いない限り、今の5人と私で制圧できるわね」

鷹峰がソニアの横に座って言った。

「これで後には退けないな。負けたら1億ちょいの借金が残るだけだ」

「その時はオプタティオから夜逃げすればいいわよ」

ソニアがそう言って笑おうとした時、ホールのテーブルから「おーいソニアちゃん」と声がかかった。顔見知りが来店して飲んでいるようだ。

ソニアは「ちょっと行ってくるね」と言ってカウンターを離れてテーブルの方に向かった。

鷹峰は一人カウンターに残され、ソニアが食べていたまかない食に手を伸ばしていると、女将さんが近寄ってきた。

「そうなったらウチの用心棒をまた探さないといけないねぇ」

と愚痴をこぼしつつも笑っている。

「と言いつつなんか嬉しそうですね」

「ここんとこソニアちゃんが活き活きしてるからね。金山から敗走して来た時は精根尽き果てたって顔でさ、死んだ魚のようなっていう感じ?」

鷹峰は客と談笑するソニアを一目見てから、再度女将さんに向き直った。

「女将さんとソニアは知り合ってから長いんですか?」

「生まれた頃から知ってるわ。ソニアちゃんのお父様がウチの上客さんだったの」

「そういやソニアの両親ってのは?」

「二人とも既に亡くなっているわ。お父様は前の前の金山防衛隊長、お母様は魔法技師で、金山では魔法を応用した採掘を担当していたの。でも、ラマヒラール金山は何度も魔族と人間で取り合ってる要所だからね。8年前だったかしらね。御両親ともに魔族との戦闘でね」

「なるほど。それでアイツは槍を?」

女将さんはワイングラスを拭きながら答えた。

「あら、槍のコトは知ってんのね。そうなのよ。仇をとるつもりなのか、一心不乱に道場に通い始めて、たった6年で免許皆伝。冒険者ギルドで100件,200件と高額案件を処理して一躍有名になったと思ったら、そのままの勢いで金山防衛隊に入隊」

「そういや、ソニアって今何歳なんですか?」

「まだ知らなかったのかい?」

「ええ。聞きそびれちゃって」

「17だよ」

「ブフッ!」

鷹峰は口に含んでいたミニトマトをポンッと噴出した。女将さんは「何をそんなに驚く?」といった顔をしている。

「こっちって飲酒は何歳から大丈夫なんですか?」

「16だね」

ホッと胸を撫で下ろした鷹峰だった。

~~続く~~

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