サッカーのFFPって何?

2020年2月21日

欧州サッカーの試合やニュースを見ていると「FFP」という用語を見かけることがあると思います。今日はこのFFPについて解説します。 ちなみにFFPだけで検索すると、新鮮凍結血漿(fresh frozen plasma)って言葉ばかり検索上位に出てきます。輸血用の血液製剤に使われるモノらしいです。「ややこしいなぁ」なーんて感じましたが、よくよく考えると人命に関わる物品ですから「この検索順位は社会的にベスト」だと考え直しました。これは本記事とは全く関係ありません。

※2020年2月のマンチェスター・シティに対するFFP疑惑に関しては、こちらの記事にまとめています。

FFP=ファイナンシャルフェアプレーの略

さて、サッカーにおけるFFPとは「ファイナンシャルフェアプレー(Financial Fair Play)」のことです。 日本でファイナンシャルという言葉は「ファイナンシャルプランナー」といった存在の印象から、「金融」の意味で使われることが多いと思います。 ただ、ファイナンシャルフェアプレーの場合は「会計」とか「企業財政」といった雰囲気で理解した方が分かり易いです。「各クラブは会計上の危険な綱渡りとかズルをしてはいけません」っていう考え方をルール化したものだと理解してください。

このFFPを定めたのはUEFA(欧州サッカー連盟)ですので、加盟国のプロチームはこれを守らないと様々な処罰を受ける可能性があります。詳しくは後述します。 ちなみに、アジアサッカー連盟にもFFPルールはあります。Jリーグのクラブ等はそれを守らないといけませんが、今回はあくまでUEFAのFFPについて解説します。

導入の背景

ルール内容を解説する前に、導入の背景を語っておきます。(興味ないよ!って方はこの節は読み飛ばしてください) なぜFFPが導入されたかと言うと、90年代後半から00年代に「クラブの経営破綻・経営危機が増えたから」です。

経営破綻したクラブで有名どころを挙げると、イタリアのフィオレンティーナパルマ、スコットランドのレンジャーズなどが破綻を経験していますね。

経営危機という点では、バレンシアの不動産投資失敗などが有名ですね。スタジアムを新設&移転し、旧スタジアム跡地を土地開発して儲けるっていう計画を進めていたのですが、リーマンショック&ギリシャショックの余波もあって1000億円近い負債を抱えてしまいました。バブル崩壊期の日本で、土地転がしから逃げ遅れた企業みたいな状況ですな。

また、2011年のスペインではクラブ経営危機による選手への報酬未払いも問題になりましたね。選手会によるストライキで開幕節が延期されるなんて事態も起きました。当時のスペインにおいては、クラブが「倒産法」の適用を受けると選手への報酬支払い義務の50%が免除されると決まっていました。これを悪用し、倒産法の適用を受けて、法律に守られながら選手への報酬をカットするという裏技を実行するクラブが増えて、選手会がキレたワケですね。

こういったカネに関わる事件が、FFP導入の契機です。カネに関わる事件が起きると、サッカービジネスそのものが成り立たなくなる可能性がありますので、「お金のリスクマネジメントを行うこと」や「オーナー企業との分離をすすめて独立採算にすること」を目的として2011年に導入されたのがFFPなのです。

UEFAのFFPの基準

UEFAのFFPにおける基準は、細かい規則まで見るとややこしいのは事実ですが、大まかには以下の1点だけ押さえればOKです。それは「直近3シーズン合計の利益額をプラスにすること」です。 ここで言う利益額とは、チケット収入、グッズ収入、スポンサー収入、移籍金受け取り収入、大会賞金、放映権収入などの合計額から、人件費、クラブ運営経費、移籍金支払い額を差し引いた金額のことです。

例えば今シーズンは2019-20シーズンですから、2016-17、2017-18、2018-19の3シーズンの上記収入と支出を合算し、プラスであれば合格になります。 ただし、これだけだとスタジアム建設などの大きな投資が必要となる案件が進められなくなる可能性がありますので、スタジアムや練習・育成設備の建設費に関しては算入しなくてもよいとされています。

また、スポンサー収入などについては「フェアバリュー(公正な価格)での算定」が求められます。オーナーの保有する別企業から多額のスポンサー料金を注入していくような方法を許可すると、「独立採算」という思想が形骸化してしまいますので、そういった制限を設けているようです。

違反した場合の罰則

違反度合によって罰則は変わるようです。 最も軽いペナルティは「注意・警告」ですね。そこから「罰金」「UEFA主催大会での収益分配から除外」といった金銭面での罰則が次にきて、最高レベルになると「UEFA主催大会でのチーム登録人数がマイナスされる(※注)」とか「UEFA主催大会からの参加資格取り消し」といった罰則が科されます。

※注:チャンピオンズリーグ等において出場可能な選手登録の人数は25人となっており、この人数を減らす処分を意味する ちなみに、ここ数年の有名クラブでの罰則実例は以下のようなものがありました。

マンチェスターシティ 2014年 罰金6千万ユーロ(約70億円)+UCL登録人数を4人減
パリサンジェルマン 2014年 罰金6千万ユーロ(約70億円)+UCL登録人数を4人減
インテル 2015年 罰金2千万ユーロ(約24億円)+UCL登録人数を4人減
ACミラン 2019年 EL参加資格の取り消し(FFPが満たせず辞退した模様)

ファイナンシャルフェアプレーに対する批判

経営の安定化を目指すファイナンシャルフェアプレーですが、一方で「格差を固定してしまう」という批判もあります。 導入当初は「そもそも中小クラブは大きな融資など受けられないのだから、ルールが導入されてもあまり変わらない。むしろビッグクラブの方が資金繰りに制約を抱えて面倒な事態になる」なんて予想されていました。

しかし、本格導入から数年を経た今は「3年スパンでの安定黒字化を求められると、クラブを成長させる資金注入や大規模投資が困難であるため、クラブの上下格差が固定されてしまう」という批判の声が多くなってきています。 これは、以前は可能であったオーナーによる資金注入がFFPによって難しくなった点が大きいです。オーナーによる資金注入や赤字補填は「FFP上の収入」に加算されないため、「一般企業としての会計上は黒字だが、UEFAのFFP上では赤字」という状況になってしまい、実質的に不可能な方式となってしまったのです。 この結果、上位クラブとの経営体力の差が埋まらず、資金面の格差が固定化されてしまっているのです。

まとめ

今回は、ザックリと簡単にFFPについて説明しました。実際は、もっと会計とか法律でのバチバチバトルがクラブとUEFA間で繰り広げられていますので、興味のある人は調べてみると面白いかもしれません。 経済・経営学部に通う大学生の方なんかは、卒論のテーマにしてみるのもいいんじゃないでしょうかね。